一方で、制度を正しく理解し、リスクへの対策を講じることで、FIT制度以上の利益を得ることも可能です。本記事では、制度の仕組みや注意すべきポイント、収益性を高めるための具体策をわかりやすく解説します。
FIP制度とは
FIPは「Feed In Premium」の頭文字を取ったものです。Feed Inは「供給・送り込む」Premiumは「補助金」を意味します。この制度は、発電事業者の投資を促し、再生可能エネルギーの導入を広げることを目的に、2022年4月にスタートしました。
発電した電気を販売する際、あらかじめ設定された基準価格と市場価格の差額に相当する補助金(プレミアム)をプラスした金額が支払われる仕組みです。
FIP制度をしっかり理解するために、次に制度が導入された背景や対象となる設備について詳しく見ていきましょう。

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FIP制度導入の背景
従来のFIT制度(固定価格買取制度)では、再生可能エネルギーで発電した電力を市場価格に関係なく、国が定めた固定価格で買い取られていました。買取にかかる費用の一部は「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」として、電気料金に一律で上乗せされ、消費者が負担していました。
その結果、年々買取コストが増え、2021年度には単価が3.36円/kWhにまで上がり、一般的な家庭で年間10,476円の負担 になるまで増加しました。
今後さらに再生可能エネルギーを増やしていくためには、消費者の負担を軽くする必要があります。そこで新しく導入されたのが「FIP制度」です。
FIP制度の対象となる設備
FIP制度は「太陽光」「風力」「水力」「地熱」「バイオマス」といった再生可能エネルギーの発電設備が対象となります。国が定めた要件を満たした事業計画を策定し、その計画に基づいて新たに運転を開始する設備が対象となります。
とくに注目されているのが「水上太陽光発電」です。これは、水面に浮かべたフロートの上に太陽光パネルを設置する発電方式で、使われなくなったため池などを活用できることから、土地の再活用方法として注目を集めています。
FIP制度の仕組み丨価格の算定方法
FIP制度では、以下の式に基づいて価格が決定されます。
- FIP価格(基準価格)=参照価格(売電収入)+プレミアム単価(補助額)
ここでは、各項目の意味や算定に関わる「バランシングコスト」について解説します。
FIP価格(基準価格)
FIP価格とは、発電設備の建設費用や運用コストを適切に回収できるように設定された価格で、発電設備が一定の効率で稼働することを前提に算出されます。
この価格を基準に、市場での売電価格との差額を補填するプレミアム単価が決まります。
売電収入(参照価格)
売電収入(参照価格)は、発電電力を市場で売却した際に得られる収入を想定したもので、市場価格に連動して変動します。1か月ごとに見直され、次の計算式で算定されます。
- 売電収入(参照価格)=卸電力市場の価格基づく価格+「非化石価値取引市場」の価格に応じて算定された価格-バランシングコスト
プレミアム単価(補助額)
プレミアム単価(補助額)とは、FIP価格と参照価格の差額として算出されます。算出する際は次の式を用います。
- プレミアム単価(補助額)=FIP価格(基準価格)-売電収入(参照価格)
プレミアム単価も売電収入と同様に、1か月単位で見直されます。
バランシングコスト
発電事業者は「計画値同時同量制度」というルールに基づいて発電しています。これは、電力の安定供給のために、あらかじめ立てた「発電計画(計画値)」と、実際に発電した「実績値」をできるだけ一致させることを求める制度です。この計画と実績を合わせる作業を「バランシング」と呼びます。
バランシングコストとは、この発電計画の作成や、発電量・市場価格の予測など、電力の需給バランスを取るためにかかる費用のことです。売電による収入から、このコストが差し引かれますが、FIP制度ではプレミアム(補助金)によって、バランシングコストが補填される仕組みになっています。
FIP制度とFIT制度の違い
FIP制度を正しく理解するためには、先行して導入されたFIT制度との違いを把握しておく必要があります。FITは「Feed-in Tariff」を略したもので、固定価格買取制度を意味し、発電した電気を国が一定価格で買い取る仕組みです。
制度を深く理解するために、それぞれの違いをみていきましょう。
売電価格
FIT制度で一定期間、時間帯に関わらず固定価格で全量が買い取られます。一方、FIP制度では売電価格が市場価格に連動して変動するため、安定的な収益予測が困難です。
ただし、FIP制度ではプレミアム単価が加算されることで、FIT制度と同程度の収益が得られるよう配慮されています。
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インバランス負担
インバランス負担とは、電力の需要と供給(または需要計画と実際の需要量)の不一致により発電事業者に課される追加コストのことです。FIT制度ではインバランス負担の免除特例がありますが、FIP制度には適用されません。
そのため、需要と供給のバランスを適切に管理する必要があります。
非化石価値
非化石価値とは、石炭や石油などの化石燃料を使わずに発電された電気が持つ「二酸化炭素を排出しない」という環境価値のことです。FIT制度では非化石価値が国に帰属するため発電事業者は取引に利用できません。
一方、FIP制度では非化石価値が事業者に帰属するため、事業者の判断で取引に活用でき、市場で証書として売買することも可能です。
発電計画値の報告義務
FIT制度では、一般送電事業者がバランシングを担うため、発電計画値の報告義務は課せられません。一方、FIP制度では発電事業者が自らバランシングを行う必要があり、発電計画の提出が義務付けられています。
また、FIP制度とあわせて知っておきたいのが「非FIT制度」です。
こちらの記事では 、非FITについて解説しています。
活用するメリットとデメリット、FITとの違いも取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。
FIP制度の種類
FIP制度はすでに海外でも導入が進んでおり、主に3つの種類があります。ここでは、海外でよく見られる代表的な3種類のFIP制度と、日本で採用されている制度について紹介します。
プレミアム「固定型」FIP
市場価格の変動に関わらず、一定額のプレミアム単価(補助額)が売電価格に加算される仕組みです。
市場価格が上下してもプレミアム額は変わらないため、収益が市場価格に大きく左右されるデメリットがあります。一方で、プレミアム分の収益が見込みやすい点は発電事業者にとってのメリットです。
また、プレミアムが定額のため、再生エネルギー賦課金の増加を抑えられ、国民の負担の軽減にもつながります。
プレミアム「固定型」FIP(上限・下限つき)
市場価格に固定されたプレミアム単価に加え、売電価格の合計に上限と下限を設定するタイプです。合計価格が下限を下回ったときには、下限額との差額を補填するプレミアム単価が受け取れます。一方、上限を超えた場合は、その超過分に対してプレミアムは支給されません。
発電事業者は、収入の上限と下限の価格がわかるため、収益の予測が立てやすいことがメリットです。市場価格が大きく上昇しても、上限を超えた収益は得られない点がデメリットです。
消費者にとっても、電気料金の変動幅に一定の限度があるため、予想外の電気料金の高騰を避けられる安心感があります。ただし、適切な上限・下限の設定には慎重な判断が求められ、その難しさが課題とされています。
プレミアム「変動型」FIP
FIP価格(基準価格)から市場価格を差し引いた額を「プレミアム」として支払われ、発電事業者が受け取る総収入(市場価格+プレミアム)がFIP価格に近づくように設計された制度です。
発電事業者にとっては、売上予測が立てやすく、市場価格変動による収益への影響を抑えられる点がメリットです。
一方で、市場価格が下がり続けると、プレミアム単価が膨らみ、再生エネルギー賦課金も増え続けます。そのため、国庫負担が重くなり、制度の持続性に懸念が生じる可能性があります。
日本のFIP制度は固定型と変動型の中間
日本で導入されているFIP制度は、プレミアムの「固定型」と「変動型」の中間の特性を持つ「基準価格追従型」と呼ばれるタイプです。
この制度では、発電事業者がある程度売上計画を立てやすく、同時に再生エネルギー賦課金の過度な増加も抑えられるため、制度のバランスが保たれています。
FIP制度のメリット
ここでは、FIP制度のメリットについて、詳しくみていきましょう。
再生可能エネルギー導入が進む
日本は、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指しており、 二酸化炭素の排出が少ない再生可能エネルギーの導入拡大を重要な目標としています。FIP制度の導入により、再生可能エネルギー事業に参入する企業が増え、普及が進む大きなきっかけとなります。
また、FIP制度では発電量の予測や計画的な運用が求められるため、発電予測技術の進化や、蓄電池など関連市場の成長も期待されています。
収入増加が期待できる
FIT制度では、売電価格が固定されているため、収益が安定する一方で、大きく利益を伸ばすことは難しいという課題がありました。一方、FIP制度は市場価格に連動するため、電気の価格が高騰するタイミングをうまく活用すれば、収益を増やせる可能性があります。
さらに、蓄電池を活用したり、発電量を調整したりすることで、より効果的な運用ができれば、FIT制度以上の収入が期待できるのもFIP制度のメリットです。
こうした発電効率を高める方法のひとつとして、注目されているのが「水上太陽光発電」です。これは、ため池や湖などの水面に太陽光パネルを設置する方法で、水による自然な冷却効果により、高温によるパネルの発電効率低下を抑え、安定した発電が期待できます。
アグリゲータービジネスが拡大する
かつては、大規模な発電所が電力供給の中心でした。現在では太陽光発電やEVなどの普及により、消費者自身も発電に参加できる分散型エネルギー社会へと移行しています。
こうした多様なエネルギー源を効率よく活用するために、電力の需給バランスを調整し、最適な供給をするのが「アグリゲーター」と呼ばれる事業者です。
アグリゲータービジネスは、分散型エネルギーの拡大に伴い注目されており、今後さらなる成長が期待されています。
FIP制度のデメリット・課題
FIP制度には、メリットだけでなくデメリットや解決すべき課題も存在します。制度の利用を検討している事業者は、こうした点も事前に理解しておきましょう。
収入の安定性が下がる
FIP制度は、収益の拡大が見込まれる一方で、収入が不安定になりやすい側面があります。売電価格とプレミアム単価は毎月変動し、市場の状況を上手く読み取れないと、発電量が多くても価格が低くなり、十分な利益を得られない可能性があります。
このため、発電事業者には、安定した収入を確保するための戦略的な運用が必要です。
バランシングコストが発生する可能性がある
再生可能エネルギーは自然に依存するため、天候や自然災害の影響を受けやすい特性があります。
なかでも、太陽光発電や風力発電は、発電量が天候に左右されやすく、計画どおりの出力を維持するのが難しい場合があります。そのため、それぞれの特性を理解したうえで、想定外の事態にも柔軟に対応できる準備が必要となるのです。
水上太陽光発電は、周囲に樹木などの遮るものが少なく反射光も活用できるため、効率よく太陽光を取り込み、発電効率の維持につながる可能性があると期待されています。
シエル・テール・ジャパンは、業界で最も長い歴史を持つ水上太陽光のパイオニアとして、これまで蓄積された知見や経験により、信頼性の高いサービスを提供しております。設計から施工、保守管理まで、高品質の技術力をお約束いたしますので、ぜひ安心してお任せください。
銀行融資を受けにくい可能性がある
FIP制度は、FIT制度と比べて仕組みが複雑で、長期的な収支予測が立てにくいといった特徴があります。制度の内容を十分に理解し、綿密な事業戦略を立てなければ、安定した収益を確保するのは困難です。
その結果、収支の見通しが不透明な事業計画とみなされ、銀行からの融資を受けにくくなる可能性があります。
FIP制度で利益をあげるカギは蓄電池!
FIP制度で収入の安定性を高め、バランシングコストを抑えるために重要なのが「蓄電池」の活用です。蓄電池とは、電気をためておき、必要なときに使える充電式の装置です。
たとえば、太陽光発電では、発電量がパワーコンディショナーの容量を超えた場合、超過分の電力はピークカットされ、売電できません。しかし、蓄電池があれば余剰電力を備え、発電した電気を無駄にせず収益化できます。
また、蓄電池があれば、価格が低い時間帯に発電した電力を蓄えておき、価格の高い時間帯に売電することで、安定性を向上させることも可能です。
さらに、自然災害などの予期せぬアクシデントで発電できなくなったとしても、あらかじめ蓄えた電力を活用することで、供給計画のズレをカバーできます。FIP制度を利用して再生可能エネルギー事業に取り組む場合は、蓄電池の導入を検討しましょう。
まとめ
FIP制度は、制度の仕組みを正しく理解し、蓄電池の導入など適切な対応を取ることで、安定した収益を見込める制度です。これから再生可能エネルギー事業への参入を検討する場合は、高品質な設備の導入と、導入後も信頼できる保守サービスを提供する企業の選定が重要です。
シエル・テール・ジャパンは、日本で唯一大型パネルに対応する水上架台フロート開発に成功した水上太陽光発電の架台フロートメーカーです。製品・アンカー・プロジェクト設計における強力な研究開発能力で、信頼性と耐久性に優れた水上太陽光ソリューションを提供しています。
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